自然のみが創りだせる、神秘の香り　【沈香、白檀、乳香】

2023.11.01

沈香の希少性

「沈香」。

もっとも有名な香木、香料の一つではないでしょうか。

この沈香という名前は「沈水香木」、つまり普通の木よりも比重が重いため「水に沈む」ことに由来しています。

「沈香」ができるまで、その過程は様々な要因が重なっています。

ジンチョウゲ科の樹高の高い常緑樹の樹皮に傷がつき、それを治すために植物自身が樹液を出し、この樹液が固まって樹脂となり、長い時間をかけ胞子やバクテリアの働きによって樹脂の成分が変質し、特有の香りを放つようになります。沈香は、木の成長に20年、沈香ができるまでには50年、高品質の沈香ともなると100年かかる（！）とされています。さらに生成の過程での謎も解明されず偶然性が高いため、人工的な生成が難しく、乱獲防止としてワシントン条約に規定されているほどとても貴重なものです。近年では特に、中東地域や中国の需要が増しており、今後更に希少性が高まりそうです。

沈香は産地によって呼称も変わります。

インドシナ半島（タイ、カンボジア、ベトナムなど）で産出される甘い香りが特徴の「シャム沈香」とインドネシアの島々で産出される苦みのある香りが特徴の「タニ沈香」とに分類されます。
香道では産地によって沈香を六種類に分類する「六国」もあります。
伽羅（きゃら）は、主にベトナム産で沈香の中でも特に最上級に位置し古ければ古いほど品質が良く、タイ産は羅国（らこく）、マラッカ産は真那賀（まなか）、インド東海岸のマラバル産を真南蛮（まなばん）、インドネシアのスマトラ産を寸聞多羅（すもたら）、インドのサッソール産を佐曾羅（さそら）と言います。

沈香木

白檀のかおりと価値

白檀（びゃくだん）も沈香と並ぶ有名な香木で、こちらもとても高級です。

英語では「サンダルウッド」と呼ばれています。

世界で最も古い香料のひとつと言われ、古くからインドの寺院でお香として焚かれたり、宗教儀式に使われたりしていました。
沈香とは違い、白檀という名の植物自体が香ります。
建築や仏具、仏像、扇子や線香など多くの工芸品などに用いられており馴染みのあるかおりと言えるのではないでしょうか？
森の中にいるような、さわやかで開放的な香りのイメージや、懐かしさを感じる香り、ウッディな香り、甘みがあり上品な香り、・エキゾチックで官能的な香りなどの表現が使われます。
白檀の香りが持つ効果としてリラックスが期待できます。さらに、精神の安定作用や鎮静作用も証明されています。
企業においては、ビジネスシーンではこれらの効果を活用してのマーケティングに白檀のかおりが活用される事例が多いと報告されています。
インドネシアが原産地ですが、古代よりインドのマイソールで産出される「老山白檀」は最上級とされています。

乳香のかおりと価値

乳香（にゅうこう）は「フランキンセンス」と呼ばれ、有名なな産地はオマーンです。
マスカットやサラーラののスークを訪れた際も「フランキンセンス」は主要な製品として取り扱われていました。
乳香は、熱帯の地域に育つ常緑低木であるカンラン科ボスウェリア属の樹脂で、樹皮から染み出た樹液が白く固まることでその見た目からも乳香と呼ばれています。
　紀元前のエジプトの墓から埋葬品として発掘されており、神聖な捧げものとして用いられ、その価値は同じ重さの金と取引されたほどです。
「旧約聖書」の逸話のも「黄金」・「宝石」・「白檀」・「乳香」などが贈答品として登場する他、「新約聖書」でも、キリストの誕生に「王権」を象徴する「黄金」、「死」を意味する「没薬」は、「神権」を表す「乳香」が捧げられたとあります。
アロマテラピーやリラクゼーションの分野でも注目されている香りで、酸味のあるピュアな香り、スモーキーでスパイシーな香り、強さや気品を感じる個性的な香り、ほのかにレモンのような柑橘系を感じる香りと表現されます。
乳香の香りは、不安を和らげ、前向きな気持ちにするような効果があると言われる、神秘的で珍しい香りであることは間違いありません。

香炉と乳香